2021/06/25 07:47




実展示6日目となり、明日までは予約なしでご覧になれます。その後は7月10日まで予約制で開催いたします。

ギャラリーが長友作品と出会って7年ほど経ちます。当時の作品のモチーフは宇宙でした。渋谷の東急文化村で行われた「Female Times」に参加した時は、今に引き継がれるエレガントな色合いで、ビッグバンや宇宙の始まりを手描き友禅の手法で描いていました。

その後は、ご存知の方も多いかと思いますが海や森をモチーフにしたモノクロの作品が登場しました。2017年のアートフェア東京では、出品作ほぼ全てがお客様に選ばれたことが印象に残っています。今も支えてくださっているファンの方には、この時に出会ったという方もいらっしゃるのではないでしょうか?東京芸大の大学院の卒展には「海底奇譚」というタイトルの高さ1.8メートル、長さ6.3メートルほどの大作を出品し多くの人の注目を浴びました。

卒業後は金沢の卯辰山工房を経て、現在のように何色も色を用い古典的なスタイルを自身の制作に引き寄せて描くようになっています。モチーフは土地や日常の暮らし、人々です。一見すると、表現されている世界が次第に変化しているように見えます。特に三島のギャラリーでは今までモノクロの作品を紹介する機会しかありませんでしたので、今回の展示を見て随分変わりましたね、というお声をたくさん頂きました。

ギャラリーとしてもモノクロで抽象的な見え方と具体的な見え方の中間辺りである作品群と、今回のように色味があって具体性に富んだ作品群との関係性についてお客様が問いかけられるであろうと想像していました。その点については、改めて彼女に、制作についての考えを言葉にしてもらいました。そして明らかになったことは、制作においては何も変わらずに、淡々と自分の興味の対象を自身の言葉を借りれば「記録している」(長友)ように描いている「だけ」(長友)なのだということです。対象は宇宙から始まり海底、森、風景、日常、とマクロからミクロへ移行していますが、自分に見えたもの(自分の内面を含めて)、描きたいと思うものをじっくり観察して記録している、という意識だということかと思います。

そしてもう一つ、余白の存在です。初期作品から現在の作品に至るまで、見る人に委ねる余白の領域が用意されているのです。今回の作品群も具体的なわかりやすい表現ですが説明しきっておらず、古典的な手法である「すやり雲」の部分を用いて想像の余地を残しています。ここまでは私の仕事、どうぞそのあとは見る方が自由に見てくださいね、という感じがします。記録するという態度や作品の中に余白を残すことが、絵の中に「作者の存在をなるべくないものとしたい」(長友)という意向への背骨になり、制作への一貫した姿勢となっているのかもしれません。

今後モチーフや手法が、渦巻くスパイラルのように一周回って変化していく可能性もあるとは思います。ですが、きっと彼女の姿勢はずっと変わらないものであろうと思います。作家や作品への信頼感はそのような変わらないものに対して生じるのではないでしょうか。今回は長くなってしまいましたが、ギャラリーという立場での私見をお伝えするのもたまにはいいのではないか思い書きました。どうぞお読み流しください。

きっと見る方それぞれの「長友作品考」があるかと思います。そのバリエーションが多い作家ほど世の中に伝わっていくのだ、ということも感じています。もしよろしければ皆様の「長友作品考」について是非メールなどでお伝えください。鑑賞する人の多様な視点を皆さんで共有することもアート鑑賞の面白さの一つでは、と思います。そして作家にとっても、それを知ることは大きな喜びかと思います。

今日の作品は木版画「東京駅地中図絵」です。https://shop.ecru-no-mori.jp/items/46221080